ILLUSTRATION NOVEL #04

「——Twinkle, twinkle, little star♪
  (きらきらひかる小さな星よ)
 ——How I wonder what you are♪」
  (あなたは一体だあれ?)

もうすぐ待ちに待ったクリスマス!
今朝からずっと、大好きな歌を口ずさみながら、お部屋にしまいこんでたお気に入りのオーナメントを探してるの。
ガサゴソ、ガサゴソ……どこにしまったっけ?
一ヶ月くらい前、地上のがらくた市で見つけて、一目惚れして買ったんだ。

「——Up above the world so high♪
  (この世界の空高く)
 ——Like a diamond in the sky♪」
  (まるでお空のダイヤモンドみたい)

クリスマスにはあれがなきゃ。
夜空にきらきら輝く、ダイヤモンドみたいなお星さま。
おっきなクリスマスツリーの、たかーいところに飾るんだ!

あ、そうそう、みんなは知ってるかな?
きぃちゃんは『きらきら星変奏曲』のムジカートなんだけど、あれにはもともと原曲があって、それをモーツァルトがアレンジしたんだよ。
もとはフランスの古いお歌で、歌詞もぜんぜん違うんだ。
今きぃちゃんが歌ってるみたいに、お星さまの歌でもなくて。
小さな子が主役の、ちょっとだけ切ない歌なんだけど——。

「あー! あったーっ!」

やっと見つけた!
クローゼットの片隅、大事に木箱にしまってあった、ガラスでできた星の形のオーナメント!
やった、やった!
きっと今、きぃちゃんの瞳もお星さまみたいに輝いてる!

「はー……やっぱりきれー……」

まるで宝石みたい。
飾り紐を指でつまんで、オーナメントを目の高さまで持っていくと、窓から入る明かりを透かして、少しだけ虹色がかって見えるんだ。

……うずうず。
……うずうずうずうず。

「……みんなに見せに行こー!」

こんなにきれいなもの、独り占めしちゃダメだもんね!
きっとみんな、「うわぁ、きれいだね!」って感動しちゃうに違いないよ!

自分の部屋を飛び出すと、ばたばたと足音を立てながら食堂へ急いだ。
あそこならきっと誰かいるもんね。
そしたら、思った通り! テラス席で『運命』が紅茶を飲んでるのを見つけたの!
少し離れた席には、朝食のサンドイッチを食べてる『カルメン』もいた!

「ねぇ、見て見て、運命! これ、きいちゃんのお気に入りのお星さまなんだよ〜!」

まずは運命のところへ行って、その目の前に、星のオーナメントを自慢げにかざして見せる。
そしたら、運命は表情をひとつも変えずにこう言ったの。

「おはようございます。きらきら星」
「う、うん、おはよ……」

期待してた反応が返ってこなくて、なんだか拍子抜け。
だからもう一度慎重に聞いてみる。

「あの、それだけ……?」
「それだけとは?」
「だから! これ! きぃちゃんのお気に入りのお星さまー!」

運命の目の前で、星形のオーナメントを一生懸命振って見せる。
すると、猫みたいにまじまじとそれを数秒見つめた運命は、ゆっくりとカップをソーサーに置いて言った。

「大事なものなのでしょう? そんなに乱暴に扱ったら壊れてしまいますよ」
「〜〜……! そうじゃなくて〜っ!」

思いが伝わらなくて、両手と両足をバタバタさせちゃう。
今、きぃちゃんのおでこのあたりを見たら、眉の間に皺が寄って、アコーディオンみたいになってたと思う!
そういえば運命って、こういうところあるよね。
話がいまいち通じないって言うか、天然さんって言うか……。

すると——コツ、コツ。
後ろのほうから、ハイヒールの音が近づいてきた。
振り返って見ると、浅黒い肌にウェーブのかかった黒髪が特徴のムジカート——『カルメン』がいた。

「あー! カルメンだ!」
「おはよう、きらきら星。今日も元気ね」

カルメンはいつもオシャレだし、確か宝石とかお花とかきれいなものが好きだったはず!
なら、きっとこのお星さまのこともわかってくれるよね!

「ねぇねぇ、見て〜! このお星さまきれいでしょ〜!」
「あら、そうね。だけど、きぃちゃんの方がかわいいわよ? うふふ、じゃあね」

カルメンは、すれ違いざまにきぃちゃんの頭をなでて、ウィンクしながら離れていっちゃう。
空になったサンドイッチのお皿とコーヒーカップののったトレーを返却口に戻すと、足早に食堂を出て行く。
なんだか急いでるって感じ……。まるできぃちゃんのことにかまってられないってみたいに。
どうして? いつもはちゃんとお話聞いてくれるのに。

「では、わたしも失礼します」
「あ、運命……」

すると、運命まで席を立って、片づけた自前のティーセットを持って、食堂を出て行っちゃう。
だからもう食堂には、きぃちゃんだけが、ぽつんとひとり。

「もう〜! なんでみんなお話を聞いてくれないの〜!?」

きぃちゃんだって、このまま黙って引き下がれないんだから!
ずんずんと力強い足取りで、今度は一階へ降りて、別のムジカートを探すと——いた!
エントランス近くで見つけたのは、まるで一文字だって見逃さない、みたいに大まじめな顔で掲示板前を見つめる『ワルキューレ』だ!

「ワルキューレ〜!」

きぃちゃんが手を振って駆け寄ると、ワルキューレはこっちを振り返って、挨拶してくれた。

「……きらきら星。おはようございます」

そして、小さくおじぎする。
ワルキューレは、きぃちゃんにいつも敬語を使うんだ。
どう見たってワルキューレの方がお姉さんだけど、ムジカートとして戦い始めたのはきぃちゃんの方が早いからって、先輩扱いするの。
敬語はやめてよって言ってもやめてくれなくて、そういう超がつくほどマジメで頑固なところが、まさに『ワルキューレ』って感じ!

「ねぇ、見て! これどう? ガラスでできたお星さまだよ!」

挨拶もそこそこに、さっそくお気に入りのオーナメントをアピール!
ワルキューレは、あごに手を当てながら興味深そうにそれを見つめて「これは……」ってうなった。
そしてきらんって瞳を輝かせた。

「その形状……悪くないですね……」

わぁ、いい反応! そうそう! かわいい形だもんねー!
きぃちゃんは嬉しくて、その場でぴょんぴょん跳ねちゃう!
すると、ワルキューレは続けたの。

「その星のトゲトゲにインスピレーションを得ました。新しい武器に“モーニングスター”はどうでしょう?」
「この戦闘ばかーっ!」

思わず叫んじゃう。
どうしてこのきれいなお星さまを見て、武器のこと考えちゃうの!?
ワルキューレは、ばかマジメで、いつも戦いのことで頭がいっぱいなんだから!
そう思ってると、ワルキューレは何か思い出したような顔をして、さっときぃちゃんに頭を下げた。

「では、失礼。行くところがありますので」

そして、きぃちゃんに背を向けて歩き出しちゃう。

「えっ? そんな……もっと話を……」

どうして?
どうしてワルキューレも話を聞いてくれないの?
きぃちゃんはその背中に手を伸ばすけど、立ち止まってはくれなくて。
すると偶然、その先に『こうもり』が通りかかった。

「これはこれは。ワルキューレにきらきら星じゃありませんか。仲の良いことで」

いつものようにおどけた調子。
こういう時は、だいたいきぃちゃんをからかってくるんだけど、今日だけは声をかけてくれたのが嬉しかった。

「こうもり! ねぇねぇ、きぃちゃんのお話聞いてくれる?」
「おっと、お悩み相談ですか? ですが残念。こうもり先生のお悩み相談室はただいま満員でして。予約がとれるのは……そうですねえ、一ヶ月ほど先になるかもしれませんね」
「そんなぁ……」

いつもはふざけて、きぃちゃんを困らせるようなことばっかり言ってくるのに。
どうして今日はかまってくれないの?

「こうもり。軽口を叩いてる暇があるのか」
「はいはい。わかってますよ、ワルキューレ。それじゃ、きらきら星。お利口にしていれば、今度アメ玉でも持ってきてあげましょう」
「もう! きぃちゃんを子供扱いしないでー!」

こうもりは「はいはい」とひらひら手を振って、ワルキューレと一緒にエントランスから出て行っちゃう。

「……」

また、きぃちゃんはひとりぼっち。
どうしてみんな、きぃちゃんの話を聞いてくれないの?
星のお飾り、一生懸命市場で探したんだよ?
かわいいクリスマスの飾りがあれば、みんなも喜ぶかなって。
クリスマスは年に一度のお祭りなの。
家族みんなでおいしいものを食べて、楽しく過ごす日なの。
……きぃちゃんの大好きな日なの。

「きぃちゃんにとって、ムジカートのみんなは家族なのに……」

きぃちゃんに本当の家族はいない。
昔はいたんだろうけど、もういない。記憶も全く残ってない。
だから、ベルリン・シンフォニカのみんなのことを、家族だと思ってたのに……。

「結局、きぃちゃんたちは戦うために集められただけなのかな」

家族ってなんなんだろう?
お父さんがいて、お母さんがいて、お兄ちゃんや妹がいて……。
絵本では見たことあるけど、わかんない。
きぃちゃんは、家族に甘えちゃダメなのかな。
いい大人になって、ただ戦うことだけに集中しなきゃいけないのかな。
そしたら、えらいって誉めてもらえるの?

……家族がほしいよ。
家族なら、きっときぃちゃんのお話を聞いてくれる。
もしコンダクターと契約したら、コンダクターは家族になってくれるのかな?
優しいお父さんコンダクター?
素敵なお母さんコンダクター?
それとも、かわいい妹コンダクターとか、かっこいいお兄ちゃんコンダクター!
想像したら少しだけ楽しくなってきたかも……。

すると、軍服を着た大人の人たちが、どこかの誰かと通信しながら、きぃちゃんの横をあわただしく通り過ぎていく。

「——本日、オーストリアへ向けて出撃するムジカートは『ボレロ』『くるみ割り人形』。そして『こうもり』の3名。同行するコンダクターは現在最終確認中。繰り返す——」

そっか……そうだった。
そういえば今日は、オーストリアへの遠征隊が移動を始める日だった。
だからみんな、その準備で忙しかったんだ。
だから、きぃちゃんの話をゆっくり聞いてられなかったんだ。
特にこうもりなんて、自分が戦いの最前線に向かう日で……。

「おっ? なんだそれ、かわいいな」
「……え?」

ふいに背中から声をかけられて、振り返る。
そこにいたのは『木星』だった。
木星は、きぃちゃんが手に持ったガラスのお星さまを色んな角度から見て、楽しそうな声を上げた。

「ガラスの星? そんなのどこで見つけたんだ? ちょっと見せてよ」
「〜〜……!」

だから、きぃちゃんはとっても嬉しくなっちゃった。

「木星〜〜っ!」
「ちょっと! なんだよ! 急に抱きつくなよ! さっきまでトレーニングしてたから汗かいてて汚いぞ!」
「そんなのいいよ! 木星〜〜っ!」
「だーもう! 頭をぐりぐり押しつけんなってー!」

そう言えば、木星ときぃちゃんは、同じくらいの時期にムジカートとして目覚めたんだっけ。
だから、一番付き合いの長いムジカート。

「しょぼくれた顔するなよ。今日みたいに忙しい日だってある。それに、みんないつもきらきら星のことを気にかけてるさ」
「いつもきぃちゃんのことを……?」
「ああ」

そっか……もしかして……。きぃちゃん、思い出した。
みんな、忙しくて話はちゃんと聞いてくれなかったけど、「今日は遠征日だから」とは言わなかった。
あれは、きぃちゃんに余計な心配をかけないように、そう言わないでいてくれたんだ。
みんな……きぃちゃんのことを考えてくれてたんだ!
なぜかって、それは“家族”だから!

「木星大好き! みんなも大好き〜っ!」
「な、なんだよ急に。そんなこと言われたら照れるだろ……」

やっぱりムジカートは、きぃちゃんにとっての家族だし、シンフォニカはきぃちゃんのおうち!

「これ、木星にあげる! ガラスのお星さま!」
「え、いいのか? 大事なものなんだろ? 前にもお守りをもらったし……」
「いいの! 代わりに、もっと素敵なお星さまを一緒に探してよ!」

まだまだ星を探して、シンフォニカをいっぱいの星で飾りつけよう。
新しい家族——コンダクターが来てくれたときに、ここを素敵なおうちだって思ってもらえるように。
きぃちゃんのことを、素敵な家族だって思ってもらえるように。

そして一緒に、大好きな歌をうたおう!

——『Ah! vous dirai-je, Maman(ねぇ、話を聞いてママ)』より
  (『Twinkle Twinkle Little Star(きらきら星)』原曲)

 Ah! vous dirai-je, Maman,
 (ねぇ、話を聞いてママ)
 Ce qui cause mon tourment.
 (わたしが悩むそのわけを)
 Papa veut que je raisonne,
 (パパはわたしに、いい大人になってほしいと思ってる)
 Comme une grande personne.
 (どこかのえらい人みたいに)
 Moi, je dis que les bonbons
 (だけどわたしはそんなことより)
 Valent mieux que la raison.
 (キャンディのほうがよっぽど大事なの)

ILLUSTRATION NOVEL #04
OFF